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住職の書斎

エイジ

エイジ

『あしたのジョー』に、かつては少年鑑別所でボスだったが、パッとしないボクサー生活に見切りをつけ、下町の乾物屋の婿養子となって、やがて物語から忘れ去られていくマンモス西という男が出てくる。

真っ白な灰になるために燃え尽きたジョー。しかし、重松は西に同調しながら、「燃えかすの残る人生や不完全燃焼でくすぶり続ける暮らしだって、まんざら捨てたもんじゃないだろう」とエッセイの中で書いている。

『エイジ』は少年文学の傑作である。ニュータウンに住み、通り魔事件の周辺で生きる十四歳の少年の日常。加害者でも被害者でもない、マスコミが報じない声なき声の少年の心の揺れと成長。

「『キレる』っていう言葉、オトナが考えている意味は違うんじゃないか。我慢とか辛抱とか感情を抑えるとか、そういうものがプツンとキレるんじゃない。自分と相手とのつながりがわずらわしくなって断ち切ってしまうことが、『キレる』なんじゃないか」。

直木賞をとった『ビタミンF』も、燃えかすをかかえてくすぶっている中年のオジサンたちへの応援歌である。重松の眼はやさしい。燃え尽きることのできない自分を恥じるな、心で割れない「余り」もあなたでないか、そんなメッセージが伝わってくるようだ。

著者:重松 清
文庫: 463ページ
出版社: 新潮社 (2004/06)
ISBN-10: 4101349169
ISBN-13: 978-4101349169
発売日: 2004/06