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住職の書斎

昭和時代回想

昭和時代回想

海岸沿いを蒸気機関車が真っ白い煙を吐きながら走っている。点在する岩と静もっている夏の日本海、そして地平線よりわき出る入道雲(表紙の絵)。

本書は「夏の白い陽光のなかに溶明して手の届かない彼方へ去」っていった記憶をたぐり寄せた著者の思春期青年期の回想である。関川夏央は私と一歳違いの一九四九年生まれの同郷の作家である。

青春時代の個人的体験など「早朝の路傍にころがっているイヌのフンのようなものではないか」と言う関川は、団塊の世代が思い入れをもって語る七〇年前後を「空虚なはなやぎ、空転する騒々しい時代」だったと一蹴している。青年期の熱情や正義など信用に値するものではないということであろう。

思春期以降反りがあわなかった父の死の床で、関川ははるか昔のことを話した。一本だけとっていた牛乳を半分ずつの約束だったのを父が三分の二ほども飲んでしまったたわいもないやりとりのことである。父は笑い、ほどなくして死んだ。

「夏のヒマワリ秋のコスモス、家のまわりを美しい雑草が彩り、日暮れれば電柱のあかりが地面に丸い光の輪をつくった時代、自助努力や相互扶助という言葉がいくばくか以上の意味を持ち、日本が共和的に貧しかった一九五〇年代前半の話である」。

著者:関川夏央
文庫: 248ページ
出版社: 集英社 (2002/12)
ISBN-10: 4087475247
ISBN-13: 978-4087475241
発売日: 2002/12