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『生命誌』の世界

『生命誌』の世界

生命誌の世界大阪の高槻の駅から商店街を抜けて少し行くと、JT生命誌研究館がある。中村桂子さんはそこの館長だ。玄関脇のロビーに「生命誌絵巻」の絵が飾ってある。

森を背景に大きな扇が描かれていて、扇の要から縁に向かって、地球上に生命が誕生した38億年前からの生物の歴史の物語が読みとれるように描かれている。まるで「生命曼荼羅」である。

 DNAの二重らせん構造とかゲノムとか、むずかしい理論はよくわからない。しかし、科学万能主義のもと、自然を人間の欲求のために利用して環境破壊をまねき、遺伝子や臓器まで交換部品としてあつかってクローン人間まで取り沙汰される今日、自然の一部であるヒトという生きものに目を向けようと呼びかけている中村さんの主張はかぎりなく重い。
 仏教は「命は身体と環境として成立している」と教え、環境を離れて身体があるという独断こそ人間の知の闇だと教えている。生命科学ではなく生命誌を提唱する中村さんの考えに通底するものだ。
 研究館の屋上に食草園があった。蝶の幼虫は種類によって食べる植物が違うのだそうだ。訪れた三月、クロアゲハの蛹が枝にぶら下がっていた。もう蝶になって大空を舞っただろうか。


著者:中村桂子
単行本(ソフトカバー): 245ページ
出版社: 日本放送出版協会 (2000/09)
ISBN-10: 4140841192
ISBN-13: 978-4140841198
発売日: 2000/09